November 30, 2025

【JP Novel 試し読み】獣装戦隊ビーストレンジャー 32話 『師匠ピンチ!?怪人ボアラバーの卑劣な技』

「ぐぬぬうう……ッ! この私が……! この怪人ドクスネイク様が負けるはずが無いのだァ!!」

 街中に聞き苦しい濁声が響き渡る。声の主は紫がかった鱗を持つ、怪人ドクスネイクと名乗る蛇人。息を切らしながら、憎しみの眼で見つめる先には三人の獣人達の姿があった。

「いいや、お前はここまでだドクスネイク!」

 その内の一人、赤を基調にして黄色のラインが入ったタイツ──所謂ヒーロースーツに、黄色のラインが入った白いブーツにグローブ、そしてバイザーを身に付けた犬獣人が声高々にして叫ぶ。

「善良な人達に危害を加える悪を、俺達ビーストレンジャーは決して許さない! 行くぞ皆!」

 ビーストレンジャーの一員を名乗る犬獣人の言葉に、左右に立っていた黄色いラインの入った青いヒーロースーツを着た猫獣人、橙色のラインが入った黄色のヒーロースーツを着た虎獣人が頷く。

 それぞれが取り出した機械製のヒーローデバイス──剣に拳銃、大槌を掲げると、それぞれが変形して組み合わさり、大きな銃身へと姿を変える。

「「「獣装合体!」」」

 レッドの手から燃え盛る炎のエネルギーが。ブルーの手から凍てつく氷のエネルギーが。イエローの手から轟き走る雷のようなエネルギーが銃身に注がれる。

 ビーストレンジャーはそれぞれのデバイスに己の能力を付与して戦う。そしてそれ等全てを繋ぎ合わせ撃ち出す大技の名を──。

「「「奥義──ビーストマグナム!」」」

 掛け声と共に轟音が鳴り響き、巨大な銃口から光る弾丸が発射される。

「ぐ、クソぉぉおおおお!!!」

 光る弾丸はドクスネイクに避けるいとまも与えず直撃した。

 地を震わせる轟音と共に、光に飲まれたドクスネイクは断末魔を上げ、そのまま爆散するのであった。

「あっぶねえ……今回の奴は中々手強かったな……」

 赤いヒーロースーツを着た犬獣人のヒーローは、緊張が解けたのかぶはぁ、と息を吐いてその場に座り込んだ。

 声の高さやその身長、や立ち振る舞いから見るに、悪と戦う正義のヒーローとしては随分幼いようだった。

「同感です。ですがレッドが最初に何も考えずに特攻しなければ、もう少し余裕を持って倒さたんじゃないですか?」

 その横に立つ青いヒーロースーツを着た細身の猫獣人のヒーローは、バイザーに触れながら犬獣人のヒーロー──レッドに文句を言った。

 身長はレッドよりも少し低く、声も高い。

「うっ、悪かったってブルー。でもそのお陰で一撃入れられて優位に戦うことができただろ?」

 ブルーと呼ばれた猫獣人のヒーローは一度ため息を吐くが、少し考え直すようにしてから口を開いた。

「僕とイエローの援護があったからですが……確かに、あそこで傷を与えていなければ逆にもっと追い込まれていたかもしれませんね……」

「だろ!?」

「ま、倒せたんだから良いだろ」

 笑顔を浮かべるレッドの横で、イエローと呼ばれた、二人に比べれば縦にも横にも大きい虎獣人のヒーローは、どっしりと胡座をかきながらそう言うのだった。

 二人に比べれば声は低いがまだ彼にも何処か少年としての幼さを感じさせる。

 そう、彼ら少年達は獣装戦隊ビーストレンジャー。悪の組織ワルダーク率いる怪人、戦闘員達の魔の手から人々を守り、平和を愛する正義のヒーローなのだ。

 ブルーが変形して出来上がった大きな銃身──ビーストマグナムに触れると、合体が解けそれぞれの武器の形に戻っていく。怪人ドクスネイクを討ち、安全を確認したレッドは剣、ブルーは拳銃、イエローは大槌を取り戦闘態勢を解こうとする。

しかし、その時の事だった。

「随分お疲れのようだな、ビーストレンジャー」

 頭上から聞こえた邪悪な声。それと同時に、おびただしい数の矢がビーストレンジャーに向かって降り注いできた。

「ぐあ……ッ!?」

「う……ッ!」

「……ッ!!」

 不意打ちをくらい、三人全員が見事にその攻撃を受けてしまう。

 痛みに片足を着き、一瞬だけ全員の思考が止まる。しかし息をする間もなく、頭上から二度目の矢の大群が降り注いだ。

「ど……おりゃッ!」

 力を振り絞ってイエローが大槌を振ると、稲妻を纏った大風が巻き起こる。迸った稲妻は何本かの矢を焼き落とし、大風は残った矢の大群を跳ね返した。

 ブルーは頭上に焦点を合わせると、空中ではばたく攻撃をしてきた主──蝙蝠人の怪人に向かって氷の弾丸を放つ。

「おおっと!」

 蝙蝠人の怪人はすんでのところで弾丸を避けると、今度は大量に生成した矢を一点にまとめ巨大な槍を作った。空を飛ぶ蝙蝠怪人にとって最も有効な攻撃手段を持つブルーに照準を合わせるとその心臓目掛けて解き放った。

「う……ッ!」

 大風でも跳ね返せない質量、弱った身体では避ける事のできないスピードで突き進んでいく巨大な槍はブルーの心臓を貫く──その前に、レッドが間に割り込んだ。

「レッド!!!」

 ガキィイイン!! と金属同士がぶつかる甲高い音が鳴り響く。巨大な槍はレッドの炎を纏った剣撃によって、見事左右に割かれブルーの後方にある地面を穿った。

「レッド……ありがとうございます……! 大丈夫ですか!?」

「ぐ、う……。お、おう、問題ねえぜ」

 しかし、とてつもない質量と速度で直進してきた槍と正面からぶつかりあったレッドの手は、剣を支える握力を維持できずその場に剣を落としてしまった。

「ギヒヒ! 満身創痍じゃねぇか。どうやら貴様等ヒーローもここでお終いのようだな」

 蝙蝠怪人が下品に笑う。しかし、蝙蝠怪人の放った言葉は事実であった。レッドは剣を握れない。イエローの技では巨大な槍に対応できない。攻撃手段はブルーの拳銃だけだが、それ単体では避けられてしまう。

 ビーストレンジャーの皆が歯を食いしばり、蝙蝠怪人を見据える。この状況を何とかする手段がないか思考を巡らせるが、それを嘲笑うかのように蝙蝠怪人は空を旋回しながら、大量の矢を生成し並行して巨大な槍を作っていく。

「弱ってるところを襲うなんて卑怯だぞ! 降りてきて正々堂々勝負しろ!」

「ギヒヒ! 悪の怪人に正々堂々もあるか。勝ちゃあ良いんだよ勝ちゃあ」

レッドが上空に向かって吠える。その間もブルーは拳銃で蝙蝠怪人を狙うが、全てすんでのところで躱されてしまう。

生成され矢と槍の数がどんどん増していく。イエローがその大柄な身体を動かし座り込むレッドとブルーの前に立つが、頭上に浮かぶ全ての矢と槍を防ぐ事は不可能だろう。

「さァて、これぐらいで充分か♡」

 蝙蝠怪人の目がギラリと怪しく光る。空中に留まっていた矢と槍が動き出し、ビーストレンジャーに向かって振り注ごうとする。その瞬間だった。

「そこまでだ」

 空中で旋回していたはずの蝙蝠怪人の真横に、巨体のバーニーズマウンテンドッグ獣人が接近していた。

「な……ッ? ぅゲエッ!!!」

 撃ち込まれたバーニーズマウンテンドッグ獣人の拳が蝙蝠怪人の脇腹にクリーンヒットする。メキメキと音を立てながら蝙蝠怪人は吹き飛ばされ、地面に向かって叩きつけられてしまった。

「師匠!」

 曇っていたレッドの表情が一気に明るくなる。

 白を基調に黄色いラインが入ったヒーロースーツ。黒のグローブとブーツ、バイザーを身に付けた巨体のバーニーズマウンテンドッグ獣人──。

 蝙蝠怪人を殴り飛ばしたその人は、ビーストレンジャーの師匠、ヒーロービーストシルバーであった。

「ぐ、貴様ァッ!」

 不意打ちを突かれ逆上した蝙蝠怪人は、同じく地に着地したビーストシルバーに向かって大量の矢と槍を降り注がせる。

「ヌゥンッ!!」

 ビーストシルバーはその丸太のように太い脚で地面を踏みつけると、その巨体を翻し、宙に向けて回し蹴りを放った。蹴りは巨槍の先端の側面に綺麗に直撃し、瞬時にして砕き折った。

蹴りによる風圧が巻き起こり、大量に降り注いでいた矢は全て吹き飛んでしまう。

「すげぇ……」

 師の圧倒的な戦い方に、レッドは感嘆の声を上げる。

 そして、風圧で減速した他の巨槍が地面に刺さる頃には、ビーストシルバーは蝙蝠怪人の目の前にまで距離を詰めていた。

「馬鹿な、お前にはロックバイソンがあたっていたはず……」

「奴はもう倒した。残りは貴様だけだ」

 ビーストシルバーが専用のデバイス──機械製のブラスナックルを嵌めた右拳に力を込める。蝙蝠怪人は後方に飛んで逃げようとするが、ビーストシルバーの拳の方が速かった。

「獣装奥義──ビーストナックル!!」

「────ッッ!!!」

 身体から生み出される運動エネルギーを増幅させる──それがビーストシルバーの能力だ。それを専用のブラスナックルがサポートし本来の120%の力を発揮させる。

 ビーストシルバーの拳が蝙蝠怪人の鳩尾を貫き、瞬間、激しい閃光が広がった。

 ドゴォオオ……! という轟音と共に大風が巻き起こる。風はビーストレンジャーの元へ到達し、飛んでくる瓦礫から目を守る為三人は腕を前にかざして防いだ。

「う……ッ」

 風が止み、ビーストレンジャーの三人は閃光の起きた爆心地へと視線を戻す。

 巻き上がった煙が晴れていき、煙越しにぼやけて浮かび上がっていたシルエットが鮮明になっていく。丸太のように太い腕と脚、中年太りで肉づいているが、鍛えている事がわかる小山のように膨らんだ胸筋。弧を描いてしまっているが、ただの贅肉の塊では無いことがわかる張りのある大きな腹。

 蝙蝠怪人の姿は既に無く、その場に立っていたのは彼等が師匠──強面のバーニーズマウンテンドッグ獣人ヒーロー、ビーストシルバーだけであった。

*****

 秘密裏に建造されたビーストレンジャーの拠点の中にある休憩所。怪人を倒し帰還したビーストレンジャー達は、戦いで疲れた身体を休息で癒していた。

「それじゃ、結局師匠は僕達と同時刻にあたっていた怪人クレイディア、追加で投入された怪人ロックバイソン、そしてあの蝙蝠怪人の計三体の怪人を倒したって事ですか」

「バケモンだな」

 そんな中、ブルーはスポーツドリンクを飲みながらやや引き気味にそう呟いた。

イエローもブルーの意見に同調する。

「ふ、お前達にもいずれこれぐらいは出来るようになってもらわねば困るぞ」

 椅子に腰掛け腕を組みながら、中年のバーニーズマウンテンドッグ獣人は強面の上によく見ないと分からない程度の笑みを浮かべた。

 タオルを首に掛けながら、椅子の背もたれに体重を預けるその姿はおっさん臭くはあったが、強者としての貫禄を感じさせた。

 その身体は大人として見てもに縦にも横にもデカく、手足の太さだけでも細身のブルーの胴体の二倍程はあり、身長も立っているブルーの高さを座高だけで優に抜いてしまっていた。

「はい! って言いたいのは山々だけど……自信無くしちまうぜ。こっちは三人で一人の怪人に苦戦してたってのに……」

 椅子に座っていたレッドはそう言いながら、テーブルの上に腕を伸ばして倒れ込み脱力していた。そんなレッドに対して、シルバーは口を開く。

「ふむ、あまり甘やかしてはならんのだが……報告を見る限り、ドクスネイクはかなり強力な怪人だった。ワシ一人でも同様に苦戦しただろう。反対にワシにあてられたクレイディア、ロックバイソンは明らかな時間稼ぎを目的とした怪人だった。お陰でワシにとっては戦いやすかったがな」

「師匠を足止めして、確実に僕達を仕留めようとしていたって事ですか?」

ブルーがペットボトルのフタを閉めて口を開く。それを受けて、シルバーはコクリと頷いた。

「そうだろうな。短期間で四体の強力な怪人の投入──奴等もワシ等の存在に危機感を覚えているのだ。次はどんな手段をとってくるかわからん。くれぐれも警戒を怠るなよ」

 シルバーの言葉によって場に沈黙が訪れる。

 それも当然だろう。シルバーが助けに来なければ命を落としていたかもしれないような戦場に身を投じているのだから。正義のヒーローとは言え、彼らもまだ未熟な子供。次は更に敵の攻撃が激しくなるかもしれないと言われれば尚更だ。

「まあ、何が来ても今回みたいに師匠が何とかしてくれるだろ」

 本音が半分と、今回の件で自信を無くし拗ねた気持ちが半分なのだろう。レッドが投げやり気味にそう言うと、シルバーは少し厳しい口調で叱りつけた。

「何を甘えた事を言っている。それでも正義のヒーロービーストレンジャーか」

「う……ごめんなさい」

 それを受けてレッドは目を閉じると、より一層落ち込んだ様子で顔を伏せた。

 しかし、レッドだけではなくいつも冷静沈着なブルー、そして大雑把で図太い性格のイエローですら何処か落ち込んでいる様子だ。

 そんなビーストレンジャーの様子を見たシルバーは仕方がないなと言った様子で続けて口を開いた。

「それにワシももう歳だ。救える数には限りがある。そして、新しい時代というものは常に未来ある若者が作る物だ」

 腕を組みながら目を瞑り、フンと鼻息を吐く。そして片目だけ開くと三人を見つめ、再びよく見なければ分からない──少し口の端を上げる程度の笑みを浮かべた。

「悪を挫き平和を守る正義のヒーロー──その可能性をお前達に見出したからこそ、司令はお前達をビーストレンジャーに任命したのだ。ワシもお前達には期待しているからこそ、いつも稽古を付けているのだぞ?」

「師匠……!」

 レッドは顔を上げると、瞳に涙を浮かべながら師匠の名を呼んだ。そして勢い良く立ち上がると、両手を上げて叫んだ。

「俺頑張る! 師匠みたいな、皆を安心させる事ができる強くて頼れるヒーローになる!」

 その様子を見たブルーは少しだけ笑顔になると、仕方がないといった風に口を開いた。

「全く、単純ですねレッドは」

「同感だな」

 普段はあまり感情を表に出さないイエローも笑みを浮かべてブルーに同調する。

 シルバーの言葉とレッドの立ち直りによって、先程まで沈んでいた空気が消え去り、場は一気に明るくなるのだった。

(お前達も人の事は言えんがな……)

 仲良さそうにレッドとじゃれ合うブルーとイエローを見て、シルバーは一人そんな事を思うのだった。

*****

「じゃあな〜ケント!」

「おう、また明日!」

 手を振って別れの挨拶をする狼獣人に向けて犬獣人の少年、犬斬ケント──ビーストレッドは同じく別れを告げた。そして歩きながら顔を上げ、くぁ、と大きな欠伸をする。

「ふぁ〜眠ぃ……平和を守りながら学校も行かなきゃいけねぇだなんて……ヒーローは大変だぜ……」

 ドクスネイクと蝙蝠怪人の襲撃から一週間。学校を終えたレッドは帰路へと付いていた。

 あれから怪人に襲撃されるような大事件は起きていないのだが、組織ワルダークが行う悪事はそれだけではない。能力を持たない末端の兵士、戦闘員達を使った強盗や暗躍など、獣人の力の範囲で行える悪事も日々行っているのだ。

 怪人の能力によって強化されているのか、戦闘員達は一般的な獣人よりは身体能力が高い為、その場合でもヒーローが出動しなくてはならない。

 その上平和を守る為に訓練も欠かさず行わねばならないのだから、彼等ビーストレンジャーには休息という物がほとんど無かった。

「ブルーの奴は何でいつもあんな平気そうな顔で任務につけてんだ? イエローは……多分気にせず授業中でも寝てんだろうな」

 ビーストレンジャーはシルバーを除き皆歳は同じだが、それぞれ別の学校に通っている。勿論レッド──犬斬ケントがヒーローだと知っている者は学校にはおらず、昼間は一般的な学生となんら変わらない生活を謳歌していた。

 そして今日も、一般的な学生が過ごす下校の時間という物を送るはずだったレッドの元に緊張感のある着信音が鳴り響く。

「この音は……!」

 着信音の発生源──ポケットに手を突っ込むと、そこには振動するヒーローデバイスが入っていた。素早く取り出しボタンを押すと、そこから聞き馴染みのある低い声──ビーストレンジャーの司令、熊渡の声が発せられた。

『犬斬君! 緊急招集だ!』

「緊急招集──って事は」

『君の想像通りだ。S-26地区に組織ワルダークの怪人が現れた。他のビーストレンジャーと共に直ちに現場に向かってくれ』

「……わかりました! 今すぐ現場に向かいます」

 レッドはそう答えると、振り返って司令の言われたS-26地区方面へと目を見定めた。

「昨日に続いて今日もかよ。確かに師匠の言う通り、アッチも随分必死みたいだな」

 そう言って先程通信に使っていたヒーローデバイスを前にかざすと、レッドは声を上げた。

「変身!」

 端末が激しく発光し、拡散した光が犬斬ケントの身体を包み込む。身体を包み込んだ光は学生服のシルエットを変え、ケントの幼いながらも筋肉質な身体をくっきりと浮かび上がらせるデザインへと変えていく。

 そして光が弾け飛ぶと、そこには黄色のラインが入った赤いヒーロースーツ。黄色のラインが入った白のグローブとブーツ。バイザーを装着したビーストレンジャーレッドの姿があった。

「待ってろよ皆、今行くからな……!」

 デバイスが変形、使い慣れたレッド専用の剣──ビーストブレイドに姿を変える。それを手に取ると、レッドはその場を全力で駆け出すのだった。

*****

「ガッハッハ〜! テメェら全員、このボアラバー様の忠実な下僕、ワルダーク戦闘員に変えてやるぞぉ〜♡」

「お前さんのじゃなく組織ワルダークの、なんだがな」

 S-26区。逃げ惑う人々の中心に、二体の怪人、そして数十人の全身タイツを着た獣人達の姿があった。

 一体はボアラバーを名乗る猪獣人の中年オヤジ。中年太りのせいというだけでは許されないだらしのない肥満体型をしており、黒の全身タイツにより濃い革製の黒のグローブとブーツ。そして組織ワルダークの紋章がでかでかと描かれた紫色のマントを身に着けていた。

 もう一体は同じく中年の熊獣人。首から下を機械製のアーマーで覆っており、猪獣人程ではないが、アーマー越しでもかなり大柄な体型である事がわかる。

全身タイツを着た獣人達は、種族や体型はそれぞれ違うが、皆がボアラバーと同じ黒の全身タイツ、革製の黒のグローブとブーツを身に着けていた。しかし違う点もあり、ボアラバーのようにマントは羽織っておらず、腹部と背中にはそれぞれの識別番号であろう数字がプリントされている。そして最も大きく違う点は頭部だ。マズルと耳を除いた目までも覆う黒の全頭マスクにぴっちりと覆われており、目の部分には二次元的なニヤけた白い目、額には組織ワルダークを示す紋章がデザインされていた。

 彼等こそ組織ワルダークが率いるワルダーク戦闘員、怪人にも従い幾度となくビーストレンジャーの前に立ちはだかった下っ端兵士達だ。

「別にいいだろ! 戦闘員はいつも俺様が作ってんだからよぉ。そんでシールドベアラー、お前さんは何でそんなにテンションが低いんだ。久々に外の空気が吸えんだぞ?」

「任務が命に替えてもアンタを守る事だからな。自由に暴れられねえし、どうせ今回の戦いで俺は終ぇだ。気分も下がるってもんだぜ」

 シールドベアラーと呼ばれた熊獣人の怪人は、溜息を吐きながらそうボヤいた。ボアラバーは不機嫌な同期の様子に少し面倒臭そうな顔をしたが、すぐに興味が本来の目的へと移ったのか、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべその視線を逃げ惑う一般市民へと移した。

「ま、俺様は自分のヤリたい事をするだけだ。まずはアイツから……♡」

 ボアラバーはそう言ってガニ股になる。腕を上げて内側に曲げると、自身の頭を中心に丸のマークを作るよう両手の指先同士を合わせた。

「ワルダーク光線発射〜!!」

 そんな間抜けなポーズを取りながらそう叫ぶと、作られた丸の形──腕の内側から野太く黒い光線が照射された。

 びびびびび♡ と奇怪な音を上げながら、逃げ惑う豹獣人の青年の背中にソレは一直線に向かっていき、見事直撃してしまう。

「あああ゛あ゛ッ!?」

 ボンッ♡ という間抜けな音と共に青年が黒い煙に包まれる。煙が晴れると、そこにはワルダーク戦闘員と同じ黒の全身タイツ姿になった元青年の姿があった。

「イ゛ィーッ!!」

 青年の面影が残っているのはマスクから唯一覗くマズルと耳、そして尻の上からピンと伸びる豹柄の尻尾だけだ。

 元青年の戦闘員は先程まで逃げ回っていた態度と打って変わってその場で姿勢正しく敬礼をすると、ボアラバーに向かって大きな奇声を上げた。

 この所作は戦闘員が組織ワルダークに忠誠を誓い、怪人の命令を遂行する際に行われる。青年は、一瞬の内に組織ワルダークの忠実な下僕であるワルダーク戦闘員に変えられてしまったのだ。

「ガッハッハー! 俺様調子万全♡ さあ戦闘員共! 逃げ惑う獣人共を捕らえろ!」

「「「イ゛ィーッ!!」」」

 ボアラバーの命令を受けた元青年含む戦闘員達は、素早く敬礼を行い奇声を上げると散り散りに駆け出した。

「さぁてお次は……♡」

 ボアラバーが新たな標的を見定めようと逃げ惑う人々を値踏みするような目付きで見渡す。その時の事だった。

「させるか! とおりゃあああッ!」

 ガギィイン!! と金属同士がぶつかり合うような衝撃音が響く。

「来たな、ビーストレンジャー!」

「何だこれ!? 硬……ッ光の壁!?」

 現れたのはビーストブレイドを装備したビーストレッドであった。しかし、ボアラバーに振り下ろした炎を纏う剣撃は薄らと光る壁のような物で防がれてしまう。

「アンタの相手は俺だ、ビーストレッド」

 シールドベアラーが手を伸ばすと、その周囲にボアラバーを守った物と似た──円盤状の光の壁が生成され、レッド目掛けて手裏剣のように飛んでいく。

「うおおッ!」

レッドは身軽な動きで全て躱した後、数歩引いて体勢を立て直そうとする。しかし、光の円盤の追撃は止まらない。ブーメランのように旋回すると、レッドの背中目掛けて空を斬り裂きながら急接近する。

「このッ!」

 避ける事が可能な物は避けながら、回避先に迫る光る円盤にはビーストブレイドによる剣撃をお見舞いする。

 すると、ボアラバーを守った防壁とは違い、光る円盤は比較的簡単に砕け散った。

地面を見ると、避けた円盤はコンクリートを斬り裂きその全長の半分程を沈めていた。

「危ねえ〜! 当たったらただじゃ済まねえな……!」

 冷や汗をかきながらレッドは素早く構え直す。そして、ニヤリと口元に笑みを浮かべ口を開いた。

「だが分かったぞ、猪怪人を守った光の壁は厚さ重視の防御力特化の技。円盤の方は耐久力を捨ててうす〜くした代わりに切れ味に特化したって技ってとこだろ!」

「正解だぞお! 随分と察しが良いみたいだが、俺様は猪怪人なんて名前じゃなくボアラバー様だ! 覚えておけビーストレッド!」

「おい、勝手に正解などと言って俺の能力をバラすな。まだ考察の余地があったかもしれないだろうが」

 意気揚々と名乗るボアラバーに対して、シールドベアラーは眉間に指を当てながら呆れたように返す。

 しかし、ボアラバーは全く気にしている様子はない。

「ガッハッハ〜! 問題ないだろ、何せバレてもコイツの攻撃は俺様には届かない♡ 俺様を守るこの壁はシールドベアラーの怪人奥義、パーフェクトベアラー! ヒーローの攻撃を防ぎながら怪人の攻撃は通す! 攻守揃った完璧な陣形なんだからなぁ!」

「お前さん、口が軽いのも大概にしろよ……」

 シールドベアラーのこめかみに血管が浮かび上がるが、やはりボアラバーはどこ吹く風だ。

 同期からの叱責に何も返事をしないまま、ガニ股になって両腕で丸を作り、ワルダーク光線発射のポーズをとる。

「だからこそ、俺は好き勝手市民を戦闘員に変えられるっつーわけだあ♡」

「何?」

 しかし向いた先はビーストレッドの方ではなく見当違いのまったく違う方向。

見れば、その先には戦闘員に捕らえられた一般市民の姿があった。

「な……ッ!? やめろ! ぐっ!?」

「言っただろう、お前さんの相手は俺だ」

 市民を守りに行こうとするが、その鼻先をシールドベアラーの光の円盤が掠める。

「ワルダーク光線、発射ー!!」

 そして隙ありといった調子で、ボアラバーは一般市民に向けて光線を放った。禍々しい黒い光を放ちながら、光線は市民へと直撃する……かのように思えた。

「どぉッせぇい!!」

 建物の影から現れたビーストイエローが、その大柄な身体を丸め市民を捕らえる戦闘員にタックルをかました。

イエローの全体重を乗せた一撃に、戦闘員はひとたまりもなく真横に吹き飛んでしまう。

「イエロー!」

 支えを失い倒れそうになった市民をイエローは抱えるとそのまま地面との間に入り込み緩衝材になった。真っ直ぐ進む光線は標的を見失い、そのまま壁に激突して消えてしまう。

「おのれビーストレンジャー……! 邪魔しおって〜! しかぁし! 連続で俺様の光線から獣人共を守れるかあ!?」

 わなわなと怒りに打ち震えながらも、ボアラバーは再度ワルダーク光線発射のポーズをとる。見れば、散り散りになった戦闘員達が市民を捕らえて集結し、ボアラバーに向けて市民を捧げている。

「ワルダーク光線、発射発射発射発射ァ〜!!」

 ボアラバーは逐一身体の向きを変え、四本のワルダーク光線を発射する。びびびびび♡ と奇怪な音を発しながら突き進む黒い光は、それぞれ四人の獣人に向かって突き進んでいく。

 最も近くにいた獣人に向かってイエローは駆け出した。そして大槌を振り上げると、駆け出した方角とは別方向の市民と光線の間に勢い良く放り投げた。

 稲妻を纏った大槌は地面を叩き割り、隆起した地面が市民を守る壁となった。イエロー本人は目の前の戦闘員に一撃をお見舞いし、市民を抱えて光線の範囲外から逃す事に成功する。

 しかし、光線の危機に晒されている市民は後二人残っている。今度こそ光線が市民に直撃すると確信したボアラバーは邪悪な笑みを浮かべた。しかし。

「「イ゛ィーッ!?」」

「なあ……ッ!?」

 何発かの銃撃音が鳴り響く。すると、戦闘員達は奇声を上げて悶え、その場に倒れ込んでしまった。支えを失った市民達もその場に倒れ込み、結果的にすんでのところで光線を避ける事に成功した。

「遅れてしまいましたが、僕も到着しましたよ! イエロー! レッド!」

「ブルー!」

「ブルー……! 助かったぞ」

 レッドとイエローが歓声を上げる。ブルーはバイザーの位置を指で整えると、市民を捕らえる戦闘員達に銃口を向ける。

「レッドのデバイスを通じて敵の能力はわかりました。優先すべきは市民の皆さんの安全確保です! 次にボアラバーを守る厄介なシールド持ちのシールドベアラーを討ちましょう!」

 その様子を見たシールドベアラーは、ブルーに向かって手をかざした。

「させるか……ヌおぉッ!?」

「自分で言った事忘れたのか? 戦う相手は俺なんだろ!」

 レッドが斬りかかり、シールドベアラーのブルーに対する攻撃を防ぐ。

「助かります、レッド! そのまま足止めを!」

 ブルーはそレッドに感謝すると、己が倒すべき戦闘員、そして救うべき市民達へと意識を集中させた。

 初めて行う二人の怪人との戦闘。しかし幸運にも、状況はややビーストレンジャー側が優勢に立ち始めていた。

「ぐぬぬ……! 発射発射発射ァ〜!!」

 負けじとボアラバーは光線を発射し続けるが、イエローによって市民を退避させられてしまう。イエローの手の届かない所はブルーが射撃でサポートして市民を救出する。

「アンタ、中々しつこいじゃねえか……!」

「こっちのセリフだ!」

 シールドベアラーもボアラバーを援護しようとするが、全てレッドによって防がれる。稽古と怪人との戦いで磨き続けてきた剣筋と剣速は、多種多様な攻撃と防御手段を持つシールドベアラーを防戦一方に持ち込んでいた。

「ぐうぅ……!」

 ボアラバーは歯噛みして悔しがる。間抜けな言動から勘違いをしそうになるが、ボアラバーの能力とその速射、連射性能はかなりの脅威だ。ブルーとイエローは油断せず全力で異能力を使い、ボアラバーの光線から市民を守り少しづつ戦闘員という戦力を削っていく。

 このままではジリ貧だと焦りを覚えたのか、ボアラバーは足りない頭を回転させ、別の攻撃手段に出た。

「なら、こっちに発射ァ〜!」

「しまっ……! レッド!」

 ボアラバーは身を翻すと、今度はレッドに向けてワルダーク光線を放った。市民の救助を優先していたブルーとイエロー、そしてシールドベアラーとの戦闘に意識を割いていたレッドは不意を突かれて反応できない。

「やべ……」

 今度こそ光線が直撃する。何度目かの正直にボアラバー、そしてシールドベアラーは笑みを浮かべた。──しかし。

「待たせたな」

 グンッ! と強い力でレッドの身体が持ち上がる。瞬きをする間に、レッドの身体は光線から遥か離れた場所へと運ばれていた。

「ムギィ〜ッ!!」

「出やがったな……!」

 ボアラバーが地団駄を踏み、シールドベアラーは明らかに警戒の色を強める。

 聞く者を安心させるバリトンボイス。貫禄のある巨体を覆う白を基調に黄色いラインが入ったヒーロースーツ。丸太のように太い手足に身に着けた黒のグローブとブーツ。装着したバイザー光らせ、レッドを救ったバーニーズマウンテンドッグ獣人は。

「師匠〜!!」

「お前達良くやった。レッド、共に奴を倒すぞ」

 ビーストレンジャーの師匠。ヒーロービーストシルバーであった。

 これで人数比は四体二。それも、かなりの手練であるシルバーの登場によって、怪人側は絶望的なまでの劣勢に立たされた。

「おい! 流石に早すぎるだろ! エクスプロブスターはどうしたんだエクスプロブスターは!」

「まあ、この調子だともうやられているんだろうな」

「クソー! 結局一人しか戦闘員にできてねえじゃねえか!」

 ボアラバーの言葉に、善良な市民を救えなかった事実が彼等の正義の心に重くのしかかる。

 レッドに至っては、遠くで市民が戦闘員に変えられる瞬間を目撃していたのだ。

「ワルダークの怪人め、絶対に許さねえからな!」

 しかし嘆いてばかりではいられない。それでも今己が出せる全力で、これ以上の犠牲者が出ないように努めるのがヒーローという在り方なのだから。

 レッドとシルバーは一瞬だけ目配せをすると、手慣れた動きで、左右から同時にシールドベアラーに向かって攻撃を仕掛ける。

「チ……ッ!!」

 シールドベアラーは身体の周りに複数のシールドを展開しながら後方に跳ぶ。そこから更にシルバーに向けて三重のシールドを張り、レッドに対して光る円盤を飛ばした。

 しかし、シルバーの右ストレートによって三重のシールドは砕け散り、シールドベアラーの周囲に展開するシールドすら貫通しながら横腹に拳が撃ち込まれる。

「ぐ……ッ!!」

 幾重にも重ねた防御で威力は大分削がれているがいるがその一撃は重い。シールドベアラーはよろめき体勢を立て直そうとするが、光る円盤を避けたレッドが追撃を加えようと接近してきた。

「させるか! 発射ァ〜!!」

「うおッ!」

 それを防ごうとボアラバーが光線を発射するが、レッドは宙に跳び紙一重で光線を躱した。

 ビーストレンジャー側も油断は決してできない、が、着実に怪人側の戦力を削る事に成功している。

「発射! 発射! 発射! 発射!」

 ボアラバーは不意を突こうと手当り次第に光線を放つが、それ等は全て虚しく空を切った。的の大きいビーストシルバーにも掠りさえしない。

「おっさんの癖にちょこまかとぉ〜!!」

「これでも鍛えているのでな」

 ボアラバーからの攻撃をいなしながら、稽古で鍛えたレッドとの連携攻撃をシールドベアラーに浴びせていく。

(しかし、何かが妙だな)

 確かにボアラバーの一発アウトの光線を避けながら、防御力の高いシールドベアラーを削りきるのは骨が折れる。だが、それでもかなりの戦力差がある今、そこまで絶望の表情を浮かべていないシールドベアラーに対して、シルバーは何かを感じ取った。

「貴様、何か企んでいるな?」

 シルバーはレッドと共に猛攻を加えながらシールドベアラーに問いかけた。しかし、着実にダメージを受けながらもシールドベアラーは意味深な笑みを浮かべるだけだ。

(獣装奥義を使うか──しかし……この状況で大技を使って隙を晒すのは……)

 シルバーの頭の奥で何かが引っかかっていた。シールドベアラーの余裕。一人しか戦闘員にできていないという何処か楽観的な、まだ自分に未来があるかのような言い回し。

(やはり早期決着をつけるべきか──)

シルバーが右拳に力を込め、獣装奥義発動の準備をする。その瞬間であった。

「貯まった……! 行くぞボアラバー! 怪人奥義──パーフェクトベアラー!」

 シールドベアラーが両腕を上にかざしそう叫ぶと、辺り一面が光に包まれた。そして、レッド、ブルー、イエロー、シルバーの周囲を光る壁が取り囲んだ。

「シールド!? 時間稼ぎのつもりか!」

 ビーストレンジャー三人は動揺するも、この怪人奥義はシールドベアラー苦し紛れの抵抗程度にしか思っていなかった。

 しかし、ビーストシルバーだけが怪人達の思惑をいち早く察知する。

「……いかんッ! お前達、今すぐこの壁を壊せ!」

 シルバーの緊迫した声が辺り一面に響き渡る。ビーストレンジャーの三人は言う通りに壁を壊そうとするが、シールドベアラーの奥義はビクともしない。

「ぜはーッ! ぜ……ッ、ボアラバー、早く……」

「ガッハッハ〜ッ♡ ナイスだシールドベアラー!」

 ボアラバーがワルダーク光線発射のポーズをとる。その瞬間、レッド、ブルー、イエローもようやく敵の意図に気付いた。

 怪人の攻撃のみを通す奥義──それでヒーロー達を身動きができないように囲ってしまえば、一方的にヒーローを戦闘員にする事が可能なのだ。

「させんぞ……ッ! 獣装奥義!」

 シルバーの拳、そしてそれに装着されたブラスナックルが激しい閃光に包まれる。その光は、先日蝙蝠怪人に対して見せた数十倍もの輝きを放つ。

 ビーストシルバーの全身から能力によるエネルギーが放出され、力を込めて踏み抜かれた地面に亀裂が走る。

「発射発射発射発射〜ッ!!!」

「ビーストナックル──フィフス!!」

 ボアラバーが四本の光線をビーストレンジャー全員に放った。同時に、シルバーが前方の壁に向かって渾身の右ストレートを放つ。

「ヌ、ウ゛ウンッ!!!」

 とてつもない轟音が鳴り響く。そしてなんと、あれ程強固だったシールドベアラーの奥義をシルバーは一撃で砕き割ってしまった。

「な……ッ!?」

 シールドベアラーが大技を使った反動で息絶え絶えになりながら、驚きで目を開く。

だが、シルバーの獣装奥義はまだ終わらない。地面を踏み抜き、レッドの元へと急接近するともう一撃を放つ。

「うあ……ッ!」

 砕けて空いた穴に野太い腕を差し込むと、素早くレッドをの腕を掴んで外側へと放りなげた。そして、イエローの元へたった一蹴りで跳躍すると、地面を踏み込み、再び強烈な一撃を放つ。

「ヌ、ウ゛……ッ!」

 しかし、今度は大きな亀裂が入るだけでシールドベアラーの奥義が砕き割れる事はなかった。

(出力が足りん……ッ! やはりワシももう歳か……ッ!)

 眉間に汗を滲ませながら、もう一撃をお見舞いする。すると、ようやく光の壁は粉砕され、驚いた様子のイエローを引きずり出した。

(後は……ッ!)

 残ったブルーに視線を移すと、シルバーの眉間に皺が寄った。力強く地を蹴りブルーの元へと駆け出すが、光線はブルーの目の前にまで迫っている。

 最低でも二撃入れなければシールドベアラーの奥義は破れない。しかし、二撃入れる隙もあるかどうか。

(覚悟を決めるしかあるまい──!)

 ビーストシルバーはブルーと光線の間に割り込んだ。そして、全身全霊の一撃を撃ち込む。

 バギイイイッ!!! と亀裂が走るような音が鳴り響く。だがやはり、シールドベアラーの奥義は壊れない。

「お前達、後は頼んだぞ……ッ!!」

 右腕を後ろに引きながら、シルバーはビーストレンジャー三人に向けてそう言葉を放った。そして、五回目のビーストナックルが炸裂したその瞬間、漆黒のワルダーク光線はシルバーに直撃した。

「ぬお゛おおおッ!?!?」

 びびびびびび♡ と奇怪な音を立ててシルバーの巨体が黒い光に覆われる。

 そして、ボンッ♡ という間抜けな音と共に、シルバーの身体は黒煙に包まれた。

「……ッ!!」

 辺りに静寂が包まれる。黒い煙が晴れていき、ぼやけたて浮かび上がった巨体のシルエットが鮮明に映し出されていく。

 そして現れたのは白いヒーロースーツに身を包んだ頼れる師匠、ヒーロービーストシルバーの姿──では無く、黒の全身タイツに覆われた悪の手先、ワルダーク戦闘員の姿をしたバーニーズマウンテンドッグ獣人の姿だった。

「そんな……」

 ブルーを取り囲う光の壁にビシビシと亀裂が広がり、砕け始める。光の壁が崩壊し、間を遮る物がなくなったブルーの瞳に変わり果てたビーストシルバーの姿が鮮明に映った。

 鍛えてはいるものの歳には敵わず肉付いてしまったその身体には、薄い生地でできた黒の全身タイツがぴったりと吸い付き、ヒーロースーツよりもそのだらしなさを強調させている。

 正義を体現してきたその崇高な肉体──その腹部と背中には、無情にもワルダーク戦闘員としての識別番号351の数字が刻まれていた。

 数々の怪人を逃がさない為、人々を危機から救い出す為にその体重を支え駆け続けた野太い両足が敬意を示す為にぴっちりと揃えられる。数々の怪人を討ち人々を守ってきた逞しい左腕が、無抵抗の意を表す為に腰にぴったりと付けられる。先程まで怪人と戦い、レッド、イエロー、ブルーを敵の攻撃から救い出した右腕は、組織ワルダーク忠誠を示す為に指を揃えて額の前に持っていく。

 趣味の悪いワルダークの紋章、二次元的なニヤケ目をデザインしたマスクから覗く口が開いた。恐怖に怯える市民を安心させ、ビーストレンジャーを導いてきた声で、ビーストシルバーは。

「イ゛ィーッ!!」

 悪の組織ワルダークに忠誠を誓い、怪人の命令に従う際に上げる奇声を発するのだった。

※試し読みはここまでです!